東京都 デジタルサービス局職員が語る「都政DX」の現状と未来|デジタル人材採用イベントレポート

2022年1月24日に開催された東京都 デジタル人材採用イベントのレポート記事をお届け。現在、都庁で活躍するデジタルシフト推進担当課長3名によるDX推進プロジェクト事例が紹介された。「徹底点検TOKYOサポート」「ユーザーテストの実施徹底を推進」「都民等デジタルデバイド是正」それぞれの取り組みとは?

東京都 デジタルサービス局職員が語る「都政DX」の現状と未来|デジタル人材採用イベントレポート

「4つの部」で構成されるデジタルサービス局

2022年度、東京都におけるデジタル人材(デジタルシフト推進担当課長)公募にあたって開催された東京都×エン・ジャパン主催の採用イベント。サービス開発担当部長である荻原聡氏より「デジタルサービス局」全体概要の説明からイベントは開始された。

【プロフィール】
荻原聡氏/2019年入庁。シスコシステムズ合同会社を経て現職。デジタルテクノロジーで都民生活の質を高める「スマート東京」の実現に向けた取り組み、最先端技術を活用した新事業の創出などを戦略的かつ加速的に推進し、世界に誇れる都市東京の実現を目指す。また、都庁各局や区市町村のデジタル行政を実現するため、デジタルトランスフォーメーション推進に向けた取り組みを技術面からサポート。

荻原氏:

まずスライドの表題ですが「挑むは、都政のDX」となっています。世界最大規模の都市圏、この東京を「世界一魅力的な都市に」そういったメッセージです。「東京の未来を、皆さんと一緒に作っていきたい」その思いを言葉にしました。

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人口約1400万人が暮らす首都、東京。
経済影響の大きい郊外地域を含めた“都市圏”としては世界最大規模を誇り、
海外からも魅力的な都市として注目を集めます。
一方、デジタル分野においては世界の先進都市に比べて伸びしろがある状態。
都民のより良い暮らしを実現し、一層魅力的な都市へと成長するため
2021年4月に「デジタルサービス局」は新設されました。
「東京を世界一魅力的な都市にする」
そんな未来を共に創りませんか

デジタルの力を活用し、都民のより良い暮らしを実現していく。一層、魅力的な都市へ成長していく。そのために2021年4月に新設されたのが「デジタルサービス局」です。その機能・役割として、大きくこのように定義されています。

「各局、区市町村のDXの推進を技術面からサポート」
「デジタルに関する全庁統括」
「デジタル人材の集結と都庁職員の育成」

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今回募集を行なっている「デジタルシフト推進担当課長」は、「戦略部」に所属します。各局支援の進め方ですが、まずは「デジタルサービス推進部」が各局の支援窓口となります。各局からの依頼をまとめ、支援内容に応じて「戦略部」や「デジタルサービス推進部」が一体となり、各局の支援にあたっていきます。とくに民間出身、専門のスキルを持つ職員たちが一緒になり、都政のDX化を推進しているのが特徴です。

多様なデジタル人材が活躍

「デジタルシフト推進担当課長」は、デジタルに関連した専門スキルを持つ即戦力の方を想定しており、任期は2年。最大でも5年となっています。

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その他にも、デジタル人材として都庁で働くメンバーがいます。2021年度には「ICT職」を新設しました。また、週1日、2日勤務で兼業も可能な「デジタルシフト推進専門員」も働いています。じつはデジタルサービス局の採用ホームページは、彼ら「デジタルシフト推進専門員」が作っています。手前味噌ですが、かなりかっこいい採用ホームページになったのではないかと思っています(笑)

最後に「デジタルサービスフェロー」は、政府CIO補佐官、民間のCTO経験者の方に就任いただき、アドバイザーとして支援いただいています。

もちろん、こういったデジタル人材の他にも、事務職はじめ、行政のプロフェッショナルも活躍しており、タッグを組んで都政のDXを推進しています。

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都庁内の職場風景。フリーアドレスが導入されており、使い勝手の良いオフィス空間となっている。プロジェクトベースの仕事が多く、さまざまな職種のメンバーがインタラクティブなやり取りがなされている。

デジタルサービス局でのDX支援概要

荻原氏:

具体的なプロジェクト事例をご紹介する前に、「デジタルサービス局」におけるDX支援の全体像についてお話させてください。まず「東京」という大規模なフィールドで、多彩な経験ができるのがデジタルサービス局です。主には「各局が進めるDX事業の支援」と「区市町村が進めるDXの支援」が対象となります。

各局が進めるDX事業の支援

まず「各局が進めるDX事業の支援」ですが、伴走型で支援を行ないます。2021年4月から12月まで支援依頼が200件を超え、さらに増え続けているところです。

主な支援プロジェクトと、必要なスキルを抜き出しています。あくまでデジタルサービス局として取り組むものですので、一人で全てを担当するわけではありませんのでご安心ください。ぜひ「求めるスキル」を併せてご覧いただければと思います。このように各局への支援だけでも、多種多様。それぞれの専門スキルによって支援しています。

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区市町村が進めるDXの支援

続いて、区市町村のDX事業の支援についてお話します。まずは時系列で書かせていただいた、こちらのスライドをご覧ください。

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このように着実にですが取り組みを前に進めてきました。ちなみに、2020年度より開催している「アウトリーチ相談」の件数でいえば、2020年度は延べ19自治体の皆さまから相談があり、2021年度は延べ16自治体の皆さまから相談を受けています。

では、さっそく具体的なプロジェクト事例を見ていきましょう。

プロジェクト事例(1)徹底点検TOKYOサポート

はじめに紹介されたのが、データベース設計のスキル経験を活かした、都内飲食店等に対する点検サポートの取り組み支援事例。担当した、亀山鉄生氏(デジタルシフト推進担当課長)より概要が伝えられた。

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【プロフィール】
亀山鉄生(デジタルシフト推進担当課長)
2021年1月入庁。大手システムインテグレータにて勤務し、省庁・都道府県におけるシステム設計・構築運用に従事。自ら東京都の職員となり、設計・プロジェクトマネジメントを行うことで、都のDXを進めていきたいという思いから入庁をした。

亀山氏:

まず飲食店に貼ってある「虹のステッカー」をご存知の方も多いと思いますが、 その一環として、以前、店舗ごとに責任者を選任し、登録していく「コロナ対策リーダー」の立ち上げに携わっていました。その経験から店舗の「点検業務」「点検した結果のデータ集約」を効率化するプロジェクトにアサインされました。

前職、SIerで勤務していたのですが、当時はWebシステムの構築を担当しており、顧客との打ち合わせ、プロジェクト管理を行なっていました。

都庁に来てからも、構築作業では執務室内にホワイトボードをいくつか並べ、業務フロー、画面イメージを書きながら要件をまとめる、といったことを行ないました。正直なところ、都庁に入って同じような形で開発を行うことは想定していませんでした。

話を戻すと、店舗の「点検業務」は総務局の方からの依頼もあり、アプリ化しようとスタートしたもの。実運用が開始したら店舗の責任者の方が店舗点検に活用するものです。

はじめに画面イメージ共有のためのモックアップをローコードツールを使って簡易的に作っていました。あらかた出来たところで、総務局の方に説明したところ「これはいい」「すぐに使えそう」となり、急遽、本番でも利用する流れとなっていきました。画面もそうですが、データベース項目の設計・実装についても、民間時代の経験が大いに活きたケースだったと思います。

かなり短い準備期間だったのですが、ローコードツールで実装し、意見を吸い上げることができました。総務局の方、デジタルサービス局のメンバーでテスト、運用管理、キッティング作業等も分担でき、無事に稼働を迎えられました。

ちなみに、点検初日は職員と一緒に店舗に同行し、現場でどう使われているか、お店の方がどう見ているのか、一緒に確認させていただきまして、問題点を吸い上げ、改善を行ないました。

その一例として、職員が見てまわるお店はリスト化されているのですが、地図がなく、店名から住所を検索していたところを、リスト上に地図を表示し、どのお店からまわれば最も効率的か、すぐにわかるような改修も行なっています。これらは先ほどの話にもあった「デジタルシフト推進専門員」に手伝っていただき、一緒になって開発を行なった実績となります。

設計と実装を行ない、さらに現場を間近に見て問題点を吸い上げていく。こういったやり方は、庁内での支援における醍醐味だと思います。

点検結果は点検済証という形で配布されるのですが、お店に貼ってあるQRコードで「何月何日にチェックをし、問題ありません」というチェック結果が公開される形になっています。さらに点検済店舗の一覧はオープンデータとして利用されています。 点検業務が始まってしばらく経ちますが、まだまだ新型コロナは収束を迎えていない状況です。このシステムにおいては現在も随時システム改修を続けています。お店の方とコミュニケーションを取りやすくする、職員の点検時における業務効率を向上させる、このあたりも検討しながら継続して進めています。

もう一つの「コロナ対策リーダーのひろば」というサイト構築も行ないました。こちらは店舗のコロナ対策リーダーの方に役立つツール、情報を提供するために作成したサイトです。店舗に張り出すポップをダウンロードできたり、点検時に撮影させていただいた写真、伺ったいい取り組みを、許可をいただいて、コメントを添えて良い事例としてサイトで紹介しています。

もう一つ、同様にローコードツールで開発した事例として、福祉保健局の支援にて、豊洲市場で行なわれている魚介類や加工品の衛生管理業務があるのですが、こちらのデジタル化も行なっています。

このようにローコードツールを用いた開発、業務改善の企画検討、開発委託の仕様書確認、開発を委託した場合のプロジェクトへのPMOとしての参画…さまざまな支援をしています。

さらに多くのステークホルダーがいるなか、その調整時に意識したポイントも共有された。

亀山氏:

こちらのプロジェクトは非常にリリースまでの期間が短かったので、いかに短時間、短期間で支援元が最終的に何をしたいのか、ここを意識して、業務全体を把握すると言うところをまず一番に考えました。運用もしっかり回っていかないと困るというところもありまして、プログラムの実装自体は改修することはできるのですが、全体の立て付けが間違っていると手がつけられないので、そこがポイントになったかなと思っています。苦労した点は点検に利用するタブレットもプロジェクトメンバーの局の人間で設定等も行ないましたので、意外とここが結構大変でした。デジタルではないのですが、こういうことも大変だったなというのがあります

データベース設計のローコードツールの活用を取り入れて実施された同プロジェクト。副知事である宮坂学氏からもその重要性について語られた。

宮坂氏:

行政と聞いて「ゆっくり仕事をするイメージ」を持たれる方も多いと思うのですが、じつは締め切りがタイトなものが多い。特に新型コロナウイルスの感染拡大防止は典型的な例かもしれませんが、状況が刻一刻と変わるわけです。話が持ち上がって2週間でやらなければいけない、且つ失敗できないという仕事も多い。そういったなかで、ローコードに限らず、「自分でつくれる人」は非常に重要だと思っています。クイックにどんどん作り、現場で意見を吸い上げ、改善する。こういった動きが今後さらに求められていくと考えています。

プロジェクト事例(2)ユーザーテストの実施徹底を推進

続いて紹介されたのが、サービスデザインのスキルを活かした「デジタルサービス開発におけるユーザーテストの実施徹底」。東京都庁では「テストしないものは、リリースしない」を合言葉に、デジタルサービスにおけるユーザーテスト実施が決定されている。その一例が、近藤弘忠氏より語られた。

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【プロフィール】
近藤弘忠(デジタルシフト推進担当課長)
2020年入庁。国内外のITサービス企業にて約20年経験を積み、黎明期のインターネット広告ビジネスの立上げから、デジタルマーケティング領域での事業責任者までを経験。企業向けマーケティングソリューションの提供、プロジェクトマネジメント、新規事業を含む事業経営などにも従事。本格的なDX推進にデジタルマーケティングの知見を、より公益性重視で活かし、アップデートをしたいという思いから入庁をした

近藤氏:

デジタルシフト推進担当課長の近藤と申します。視覚障害者の方のデジタルデバイド是正の取り組みをはじめ、さまざまな各局の支援事業を担当しています。今日は「ユーザーテストの推進活動」についてお話させてください。

今日の話を通して私自身のどのような経験が活かせているか、この活動でどのようなことを大事にし、何を実現しようとしているのか、ぜひ触れさせていただければと思います。よろしくお願いします。

まず「ユーザーテスト」と聞いて、皆さんはどのような活動を想像されるでしょうか。言葉通り「ユーザーにテストをしてもらって、そのフィードバックをいただく活動」を指しています。都庁でいう「ユーザー」は都民の方々であったり、都内の企業の皆さまを指します。

現時点では、できるだけ利用者層に近い都庁職員の皆さんに、都庁が提供するオンライン上のサービス、Webページの使い勝手を評価してもらい、修正・改修していく取り組みを行なっています。「ユーザーテストガイドライン」も作成しており、この活動における考え方、ポリシーをまとめたものです。

平たく言えば「利用者の立場に立って正しくサービスを考え、提供することを実直に行う」ための活動となります。また、この活動の中で特に重要になるのが、ユーザーテストの実施手順を実務レベルで落とし込み、継続的に行なえるようにすることであり、その部分も担っています。

もしかすると、サービス提供前のユーザーテスト、クオリティチェックは民間企業では本当に当たり前のようにやっている部分かと思います。一方で、都庁ではすべての事業において、「職員自ら」が納得するまで出来ているか、その答えは残念ながらYESとは言えない状況でした。

例えば、委託先に任せきりになっていた部分も少なからずありました。世の中やサービス利用者のニーズが今ほど複雑ではない時代だったので、そういったやり方が通用して来た部分もあったのかもしれません。

しかし、現在は常に利用者に向き合い、提供しているものがフィットしているかを確認し、改善のサイクルを回すことが非常に必要な時代となりました。この活動が、民間の企業様に比べて行政は遅れており、今求められている活動の一つだと理解しています。

ユーザーテストはそのサイクルを回すためのスタートポイントとなる活動です。本当にいわゆる「一丁目一番地」に近いところに位置づけており、重要な活動として取り組んでいます。ある意味、これは新しい文化を創る活動にもなると思っています。

この活動では私自身の今まで携わってきたマーケティング実務経験が活かせるところが多いと感じています。例えば、利用者アンケートやインタビューを通し、提供サービスの課題発見をしていく、あるいは改善策のヒントを得て実施した施策で顧客体験を向上させた経験があり、まさに同じような着目点で取り組んでいます。

ユーザーテストは先ほどお話ししたように、「利用者の立場でサービス作りができているかを確認すること」が基本です。そして実施手順の落とし込み、いわゆる実装が肝心だと考えています。各局の事業遂行者、ユーザーテスト実施者の立場に立った手順書、実装できる展開を心がけています。この部分もチームとして取り組んでおり「知る・分かる・できる」といったステータスを意識しながらすすめています。

「知る」は、「ユーザーテストがなぜ今本当に重要なのか」を知ってもらうこと。「わかる」は、「適切なユーザーテストの実施方法が理解できていること」。そして「できる」は、「実際に事業推進者が1人で実践できるようになること」を指します。その定着までのマイルストーン、最終的なゴールを定めて活動を行なっています。実際のトレーニング、やり方を本当に理解してもらうための並走、定着させるために各局に現場をリードしていく仲間作り。これらを計画的に進めている状況です。ここでも前職の経験が活きていると思っています。


利用者の声をプロジェクトに活かす、そういった発想について行政のプロジェクトでは従来からも存在してきたものなのだろう。近藤氏はこう補足する。

近藤氏:

それ自体は今までも行政にはしっかりと根付いた考え方、発想でした。企画段階では課題の発掘のためにリサーチをかけたり、ステークホルダーの方々、当事者の方々にヒアリングを行なってきていました。ただ、サービス提供に携わる方であれば実感があると思うのですが、今まで以上に利用者の方々のニーズは多様化し、環境、世の中が変化するスピードが早く、大きく進んでいます。その状況の中で以前に増して、フィットするクオリティが求められていると理解しています。より利用者視点での確認作業、利用者とのキャッチボールが求められているのだと思います。

東京都庁内におけるデジタルサービスに関して「テストしないものはリリースしない」というメッセージを発信した宮坂氏もこう語る。

宮坂氏:

自分の中では「対話型の開発」と日本語化しているのですが、そのサービスが本当に使いやすいか、そもそもニーズがあるか、サービスを使ってもらう人に聞きながらきちんと作ることが大切だと考えています。利用者のことを想像し、妄想では作らない。そして、作ったあとも聞きながら直す。ある意味、当たり前のことですが、ぜひ、それをやりたいと考えています。もともと東京都でも都民の皆さまの声を聞きながらさまざまな事業をやってきましたが、主に電話や対面が主でした。もちろんそういった部分は残しつつ、せっかくデジタルのツールがあるわけですから、デジタルの力を使って対話を促していきたい。サービス開発に限らずどんどん増やしていければと思います。

プロジェクト事例(3)都民等デジタルデバイド是正

3つ目の事例として紹介されたのが「都民等デジタルデバイド是正」の取り組み支援。デジタルデバイドとは、インターネットをはじめ、情報通信技術が使える人と使えない人の「格差」を指す。情報にアクセスできるかどうかだけでも、知識・機会・貧富などの格差につながる、それらを是正していくためにデジタル力を活用した行政サービスを提供・支援していく。主に都内8区市を対象とした区市町村モデル事業として、プロジェクトマネジメントを担当した平井則輔氏よりプロジェクトの詳細が紹介された。

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【プロフィール】 平井則輔(デジタルシフト推進担当課長)
2020年入庁。大手携帯キャリアにおけるネットワーク設計・企画・交渉窓口を担当。日本最大級のネットワークエンジニアコミュニティにおける会長を歴任。入庁後も西新宿のスマートシティ化、スマートポールの設置における事業企画、遂行に従事。近年ではデジタルデバイド是正等、各市町村と連携し、モデル事業構築、プロジェクト全体統括を担う。

平井氏:

こちら事例についてお話させていただく前に、私の前職はネットワークエンジニアなのですが、なぜ、「デジタルデバイド是正」に取り組むのか。プロジェクトをリードしているか。このあたりからお話できればと思います。

まず、私自身、このプロジェクトにアサインされ、非常に良かったと思っています。もともと私はネットワークエンジニアとして「世界中の人々をつなげたい」という志があり、仕事に邁進してきました。そういったなか、今回のプロジェクトで、自分が持っていた「つなげたい世界」が健常者を中心としたとても狭い世界だった…と思い知らされることになりました。

このプロジェクトでは、8区市を対象に行なっており、さまざまなフィールド、デジタルデバイドの現場を抱えており、是正を行なっています。高齢者はもちろん、視覚障害、聴覚障害をお持ちの方、さらに認知症を持たれている方、さまざまな現場がスコープです。ですので、実際に活動するフィールドも区役所、町会、認知症カフェ、地域コミュニティ等、多岐にわたります。そして現場ごとの課題をデジタルを使い、改善していくのがミッションです。

しかも、主に区市から「こういった現場があります。一緒にやりましょう」と提案、相談が来たものですので、非常に野心的な取り組みも多くあります。例えば、コロナ禍において対面で開催できない「町会の連絡会」もそのひとつです。

「オンラインで開催してみよう」
「視覚障害のお持ちの方に区の情報を届けたい。ホームページを改善したい」
「コロナ禍で希薄になった地域コミュニティをデジタルの力で活性化したい」
「LINEやZoomのようなオンラインツールを使ってみたい」
「スマホからひつ必要な情報にアクセスできるようにしたい」

こういった声を拾い、実施に取り組んでいます。もちろん高齢者、障害を抱える方々はデジタルに不慣れな傾向にあります。それぞれのスキル、障害に合わせたスマホ教室を企画し、サポートを行なっています。

フィールドを抱える自治体が8つにも及ぶと、さまざまなステークホルダーがおり、当然、私一人では対応できません。ですので、体制として、8つの区市それぞれに私たちの同僚である「デジタルシフト推進担当課長」とプロパーの職員をアサインさせていただき、いわゆるツーマンセルでプロジェクトにあたっています。

私はプロジェクト全体を統括する立場ですが、その遂行にあたってプロジェクトマネジメントのスキル、デジタルを活用した課題解決の提案スキルなど、前職経験が活きていると感じます。

2021年11月には、視覚障害者の方々に対するヒアリング会に私自身も参加し、どういった状況に置かれているのか、スマホをどう使っているのか、非常に多くの気づきがありました。例えば、「コロナ禍を機にスマホを使うようになった」という視覚障害者の方にも出会うことができました。

とくに印象的だったのが「スマホを通じてコミュニケーションができるようになった」という声でした。さらに「コロナ禍でふさぎ込みがちだった自分の世界が広がった」と喜びを感じていらっしゃった。スマホが、世界をつなぎ、寂しさを解消し、「人とつながっている感」を得られるものとなっていました。障害を抱えている方に、そういった価値が届けられることにインターネットに携わる者として非常に感動しました。

一方で、スマホ利用はまだまだ少ない現状もわかってきました。実際にヒアリングをし、取り組みの必要性を強く感じることができました。このプロジェクトは、これからが佳境です。各区市でそれぞれの課題に合わせた取り組みを実施していただき、さらにドキュメント化していきたい。個別課題のノウハウを文書化、公開し、他の自治体でも活用できるようなものを作っていきたいと思っています。

モデル事業となる8区市において最も多い依頼・相談とはどういったものなのか。また、どういった基準で職員がアサインされるのか。平井氏はこう解説してくれた。

平井氏:

とくに「コミュニティを活性化したい」といったご要望は多くいただきます。そういった時は、やはり「このようなソリューションがあります」といった提案能力が求められますので、そういったところが得意なデジタルシフト推進担当課長をアサインさせていただくことが多いと思います。その他にも、視覚障害者の方に向けたホームページ改修、ユーザーテストを行いたい等さまざまな依頼があり、適材適所なアサインを心がけています。

「デジタルデバイド是正」について、宮坂副知事は、難易度は高いが、最も重要な課題のひとつだと語る。

宮坂氏:

デジタルデバイド是正ですが、やはり一番難易度の高いことのひとつかなと思っています。本日もとある会議で、Quick Win(クイック・ウィン)、いわゆる早期の成功事例をどんどん出したいという話がありました。ですが、行政はデジタル化において「誰ひとり取り残されない」を掲げてています。そのためのマニュアルを用意しようとするだけでは、Quick Winは増やせないのでは?という指摘がありました。

まさにその通りで、本当にバランスをとりつつ、やらないといけない。民間企業と行政の最大の違い、そして行政の最大の役割は「最も困っている人をサポートすること」にあります。民間企業の考え方は、使ってもらえる人の割合を増やすことでシェアトップが狙える世界。ですが、行政には市場シェアという概念がなく、真に困っている方々に何とか使っていただけるよう、行政サービスを届けることが大事になります。

デジタルデバイドの是正においても、年齢だけに限らず、障害、外国籍の方、本当にさまざまなケースがあり、千差万別。難易度が最も高い部分ですが、行政として諦めずにチャレンジすべきことだと考えています。この部分は、デジタル庁においても取り組む指針が発表されていますので、国と一緒に前進していければと思います。

Q&Aコーナー

ここからはイベント後半で開催されたQ&Aコーナーを紹介したい。

Q.デジタルシフト推進担当課長を含め、外部人材に期待していることとは?

荻原氏:

特に各局支援において求められる場面が多いスキルを改めて記載しています。

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荻原氏:

もちろん、全てに該当する方は少ないと思いますので、ひとつでも該当するスキルをお持ちであれば、ご応募いただければと思います。特に重要視しているスキル、優先度はありません。ですが、強いて私個人の経験からお伝えするとエンジニアリングのスキルと、プロジェクトマネジメントのスキルは大いに活かせる場面が多く、ぜひ、都政のDXに活かしていただければと思います。

宮坂氏:

都政では、行政手続きはもちろん、教育、医療、交通、水道などハードからソフトまであらゆる都市インフラを司っています。目に見えない行政サービスも多く、デジタルの可能性は横断的、全てにあると言っても過言ではありません。

都庁では「ハード系のエンジニア」という言い方をしますが、建物をつくったり、河川の維持管理をしたり、そういった都市インフラを支える技術者が非常に多く働いています。そういったハードにさらにデジタルの力を加えていく。ここが都庁で直面している大きな課題のひとつ。ですが、エンジニア、デザイナー、マーケターなど、デジタルに詳しい人材が圧倒的に少ないわけです。そういった方々を採用させていただき、都庁に根付く「エンジニアリング文化」を、デジタル領域でも作っていきたいと思っています。

今回のデジタルシフト推進担当課長の募集のような形はもちろん、週1~2日の兼業型で来ていただく「デジタルシフト推進専門員」、新卒採用のような形など、さまざま取り組んでいます。採用においてもイノベーションを起こし、今までにないアプローチにも取り組んでいく。いずれにせよエンジニアリングが強い都庁で、さらにそこにデジタルを加えたいという方は、チームづくりを含め、ぜひ一緒にやっていっていただければと考えています。

Q.これまで進めてきたプロジェクトで、今後の社会に役立つと実感したこととは?

亀山氏:

先ほどのプロジェクト事例の中で、点検プロジェクトと一緒に豊洲市場での話をさせていただきました。そのなかで、今まで検査では大量の紙を持っていかなければなりませんでした。また、簡単に言えば「毒のある魚を見つける」という仕事もある。これまでは、そういった魚介類の専門的な辞典を持ち歩いて検査に行っており、職員が水回りで苦労していました。それらをタブレットに置き換える等、システムで対応することで、単純に業務負担が軽減され、業務効率の向上も図れています。

このプロジェクトでは、危険な魚の流通を防ぐことにもつながり、都民の方の健康維持にも役立っています。このように「デジタルの仕掛けがうまく行き届いていない業務」は都庁にたくさんあり、上手くいった事例を展開できれば、さらに良くなると思っています。今回見てくださった方がジョインいただくことで、もっと進められる領域が拡大していくと思いますので、すごく期待しています。

Q.民間企業から東京都に転職してきて官と民の違いを感じることとは?

近藤氏:

官と民の違いは、先ほど宮坂さんが触れられていたところに近いですが、企業活動はビジネス的な効率、収益性に着目し、マーケットのなかでイノベーターからアーリーアダプター側にアプローチし、いち早くアーリーマジョリティと言われる収益につながる人たちにリーチしていく、という発想が基本にあると思います。

ですが、行政では「誰ひとり取り残さない」という重要な命題があり、マーケティング的に言うとレイトマジョリティ、ラガードと言われる方々に、どうリーチし、動かすか。こういった観点が欠かせないと思います。ここがじつはすごく新鮮であり、最も難易度が高い。ですが、今までチャレンジしたことない領域だからこそ、大きなやりがいにつながっています。もう一つ、行政ならではのステークホルダーとの調整があると思います。先ほど「ユーザーテストで利用者、都民の方々の声を聞く」活動をお話しましたが、都民の方々の声を代弁されている議員の先生方にも取り組みを理解していただくことも仕事です。間接的な部分ですが、都民の方々にきちんと向き合うという意味で非常に重要な仕事だと感じています。

レイトマジョリティ層に向け、いわば「広いサービス」を提供していく。そこにあたり、前職時代から変化した考え方、発想などはあったのだろうか。

近藤氏:

非常に難しいところですが、「答えは利用者側にある」をより強く意識するようになったと思います。使わない人には使わない理由があり、それをいかにあぶり出すか。民間時代では「そこまでは見なくていい」と選択的に「アリ」だった部分が、今は「アリ」ではありません。本当に真摯に向き合わないといけない。そこを常に心掛けようと思っています。

Q.民間企業で重視されるROI、費用対効果だが、行政でも重視される部分か?


近藤氏:

もちろん皆様の税金から成り立っていますので、むしろ意識しないとまずい、ということだと思います。ただし、ROIは、いわゆるレベニューに換算するというのが民間企業だと一般的だと思うのですが、レベニューは売上だけではなく、受益が都民にとって何たるか、実際に事業を推進している各局の方々が答えを持っており、突き詰められています。そこを支援させていただいている私達として、一緒に追求して行く。いわゆる行政的なROIを上げることを目指し、チャレンジすべきだと思っています。

Q.課長として採用されるが、悩みを相談できる相手はいるか?


平井氏:

まず言いたいのは「私たちがいます」というところです。現在、同僚のデジタルシフト推進担当課長は17名います。それぞれのバックグラウンドがあり、非常に多種多様。悩みを相談するバリエーションが少なくとも17通りはありますので、同僚だけでも悩みの解決に役に立てると思います。

都庁にデジタルシフト推進担当課長以外にも、いくつかの会社から出向されています。多様なバックグラウンドの方がいますし、さらに一緒に働いているプロパーの職員が非常に頼りになります。私が都庁に転職してきて、一番びっくりしたのが、都庁のプロパーの職員がものすごく一生懸命働くこと。非常に刺激を受けますし、私自身が悩んだ時、当然相談もしますが、「悩んでいる暇なく、まずは仕事をしよう」と(笑)こういった環境は非常に恵まれていると思います。

都庁が運営するnoteに【都庁でやってみた!1on1】というシリーズがあり、1on1なども徐々に広まってきた文化だと思います。「ICT職員向けにデジタルシフト推進担当課長が1on1する」という公的な取り組みもあります。それぞれの部署で自主的にやっていたり、部長の方で宣言されて実施している方もいます。

荻原氏:

定期的に17人のデジタルシフト推進担当課長の皆さんと「1on1推奨日」をつくって、1 on 1を実施しています。皆さんが抱える課題を解決することも私の仕事ですので、思っていることをお伝えしますし、逆に課題も聞き、解決に向けて支援していければと考えています。

Q.都政のDXに取り組むなかで、都庁内で起きた変化とは?

亀山氏:

DXの定義はいろいろあると思いますが、データ利活用に大きな変化があったと思います。都庁の中にもダッシュボード基盤が出来ていまして、その環境を使い、いろんな既存システムから出てきたデータ、新しく出てきたデータを分析することが当たり前にできるようになってきました。一部の調査結果などは一般に公開していますので、そのあたりが結構変わってきたなと思っています。

荻原氏:

これまでやはり「紙」を使うことが多かったのですが、この紙の業務を見直ししてデジタル活用が進み、これまで難しいとされてきた業務もデジタル活用の検討が始まりました。こういった変化と第一歩だと思います。デジタルを使うことで職員が便利だと実感できれば、データの利活用など、次のステップにも進みやすいと思います。

平井氏:

私は、noteの立ち上げが非常に印象的でした。noteを公開することで、業務の取り組み方も変わったのではないかと思っています。noteを運営しているのは、若手職員たちですが、SNSを通じた反応が、彼らの目を輝かせます。そういった様子を見ると、本当にうれしくなります。自分たちの取り組みをアピールしていこうと熱意のこもった文章も多いので、それが取り組みを良いものにしていく気持ちにもつながっているし、ポジティブループが回り始めた実感がありますね。

亀山氏:

仕事していると「それを記事にしてもいいですか?」と話しかけてもらえたりして。こっちもやる気になりますし、記事になり「スキ」のマークがつくのが嬉しいですし、すごくいい循環ですよね。

平井氏:

そうですね。なので、ご覧になってくださった皆さんが「スキ」ボタンを押していただけると、若手職員が非常に喜びますので、ぜひ連発していただければと思います(笑)

近藤氏:

私たちは各局の支援をさせていただいている立場ですが、今だからお話できることとして、2年前に入庁した当時は、他局との打ち合わせを行なう時、いわゆる塩対応を正直受ける場面も少なからずあったように思います。いま思えば、自分たちが困っている実感がないにも関わらず、「デジタル化を支援します」と言われても「とくに必要ない」が、本音だったのではないかと思います。

ですが、私たちが「デジタルサービス局」と名称変更し、宮坂さんが常に「ユーザーテストしないものはローンチさせない」と、いわゆるユーザーファーストのメッセージを発信してくださり、それらが浸透し、全庁内で方向感が出てきたのを肌で感じています。今では塩対応ではなく、「一緒に考えてもらえないか」という場面が増えたことが、やりがいにもなっていますし、健全なやり取りができるように変化してきたと感じています。

副知事 宮坂氏が語る「都政のDXがもたらす未来」

そしてイベントの最後には、副知事である宮坂氏より「都政のDXがもたらす未来」についての抱負、展望について語られた。

宮坂氏:

「DXを実現していく」そういった思いがある一方で、現実的に言えば、先ほど「紙を用いた業務が徐々にタブレットでも対応できるようになった」という話もありましたが、まだまだそういったレベルの改善も多くあります。私が副知事に就任した当初は、Wi-Fiでさえ、都庁内であまり使えない環境でした。こういったウェビナーやテレビ会議が当たり前にできるようになったのもここ1年ほどの話です。

ですので、民間企業の先端をいく方々からすれば「それはDXとは言わないのではないか」という部分も正直、多々あるかと思います。ですが、まずはデジタルを覚え、少しずつ全員で去年より今年できるようになろうと小さな一歩でもいいので歩みを進めています。民間企業と違い、行政だけは倒産するわけにも、M&Aされるわけにもいきません。持続性こそが何よりも重要だと考えています。時には大幅にジャンプする年があってもいいですが、例え、力が及ばなかった年があったとしても、デジタルを諦めずにコツコツ積み重ねていく。

さまざまな都市ランキングが世界にはありますが、東京都はどのランキングを見てもベスト5位以内に入るほど魅力に溢れた都市です。ですが、あくまで日本における行政のデジタルランキングですが、東京都のランクは低く、ベスト10に入っていないものさえあります。ですが、先ほどお話したように、都市インフラを支える技術者がたくさんいますし、ある意味、デジタルを十分には活用しきれていない運用、いわゆるアナログでも、ここまでの都市ランキングを叩き出しているわけです。

もし、デジタルをフル活用できるようになり、アナログ・対面の強さと掛け合わせる「二刀流」の武器を手にしたら、ランキングを上位に持っていくことができる、そういった手応えがあります。ですので、DXの先には、都市ランキングのようなものにも必ず反映されるはずですし、胸を張ってDX、スマートシティと言えるようなすごい場所まで目指せれればと思います。

最後に、じつは中途採用における大規模なオンライン採用イベントは初めて開催させていただきました。至らない点も多々あったと思いますが、それら含めてぜひフィードバックをいただければ、少しずつ改善したいと思います。

私自身、noteにも少し書かせていただきましたが、「行政のデジタル化」はまだ誰もやり遂げていない領域になるかと思います。世界的に見てもじつは事例もそこまで多くありません。先を行く国であっても、長くて10年、20年くらいの話です。そういった意味ではセオリーがなく、やったことがある人も少ない。私自身、民間企業の時のセオリーが使えるかなと思ったのですが、使えるものもあれば、使えないものもたくさんあります。

また、難しさがある一方で、医療、教育、福祉、都市インフラ、あらゆる領域でデジタルの活用が求められていくはずです。今後、行政のことがわかり、さらにデジタルのこともわかる人材はすごく必要とされるでしょう。これは都庁に限らず、東京都の区市町村だったり、国のデジタル庁もそうだし、外国団体とか政策連携団体も含めて活躍の場が広がるはずです。日本には自治体が1700強あります。さらに47都道府県、省庁もありますので、少なくともこの国には今からCIOが2000人以上は必要になると思っています。

デジタルの知識に加え、行政がどう動いているのか、議会がどう回っているのか、民主主義というものが、いかに成り立っているか。こういった知見を得ていくことは必ずプラスになるはず。行政職員たちはデジタルを一生懸命勉強していますし、私たちは行政のことを一生懸命勉強しているところ。ぜひ、東京都庁に来て、この「二刀流」を使いこなせる方を目指してほしいですし、公共分野でデジタルの知識を生かして働く、2000人の一員になっていただければと思います。